推しのファンアートを作った

推しのファンアートとして3Dモデルを作った話です.

 人生でおそらく初めて?推しというものができた. (推しの定義を拡大すれば初めてではないかもしれない.) 何か夢中になれるものがあるということが羨ましく,一方で消費行動に傾倒しすぎるのはなるべく避けたい. そんな考えの中で3ヶ月弱行っていたことの一部を記録に残す.


天ノ譜ステラ

 彼女の名前は「天ノ譜ステラ」. 別の銀河惑星から地球へやってきた~というような細かな話はここでは割愛する. いわゆる歌うVTuber,VSingerである. 誰もが一度はお世話になったことがあるであろうあのサウンドハウス公認のVTuberとして2023年4月にデビューした. 最初こそサウンドハウスという単語に釣られ,何気なくデビュー配信を視聴していたが,気付けばすべての配信をリアルタイムで視聴するようになっていた. 彼女の魅力を稚拙な文章で著すのは非礼にあたる. なので昨日リリースされたばかりの初のオリジナル楽曲をとにかく聞いて欲しい.

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ハートシェイカー・ドキュメンタリー

 他にも歌ってみた動画を多数公開している. 推しのファンアート云々はどうでもいいのでとりあえず聞いて欲しい.

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歌ってみた

 そしてこれ以降の文章にはあまり価値はないのでこのままYouTubeに飛んでほしい. そして天ノ譜ステラの魅力的な歌ってみた動画や配信のアーカイブに目を通してほしい. この記事で伝えたいことの9割はもう伝わった.

 以上,推しのファンアートを作った話でした.

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 これ以降は伝えたいことの残りの1割が蛇足としてだらだらと続く.

1ヶ月記念グッズ お辞儀アクスタ

 さて...推しができたら何をしたいだろうか. 誰もが皆ファンアートを作ることをきっと考えるだろう. 推しを自分の表現で何かしらの形にしたい. そんな想いでファンアートを作った過程がここから少しだけ続く. 暇で暇で仕方がない人がその暇な時間を費やして読んでくれると嬉しい.

ファンアート

 どんなファンアートを作ろうか. いやそもそもどんな手段でファンアートを作ろうか. サウンドハウス公認だけあって天ノ譜ステラの熱心な視聴者は音楽ができる者が多い. 音楽は専ら聞き専で,できる楽器は両手の掌を打ち付けてリズムを取ることぐらい. とても真似できそうにない.

 では絵心はあるのかと問われればあるとは言い難い. いや,決してあるとは言えないし,ないと言ったほうが正しい. 要するに音楽も絵もできないのに,なぜかファンアートを作りたいという気持ちだけはある. それでも一つだけ人生でずっと続けていることはある.

CGだ.

 (3D)CGデザイナーみたいなかっこいい肩書きはないものの,実際それっぽいことをしてご飯を食べている. 最近の作品だとこれとかあれの最後の黒い画面に名前が流れたりするようなことを仕事にしている. CGならチョットダケワカル. ファンアートを作る唯一の術である.

二次創作ガイドライン

 2Dのイラストならまだしも,勝手に3DでVの体?になりそうなものを作っていいんだろうか?という疑問がまず思い浮かぶ. 拙い二次創作だとしても,3Dでは骨が入ってスキニングを行ってしまうとその魂の意に反して動く体ができあがってしまう. SNSに投稿する際のファンアート用タグはあるものの二次創作ガイドラインが当初はまだなかった.

二次創作ガイドライン - 株式会社アーランシャフト

 そんな疑問を抱きつつも手を動かし始めた6月,ちょうど公式から二次創作ガイドラインが発表となった. 3Dモデルでファンアートを作ることに対して特に言及はされておらず問題はなさそうに見える. むしろ切り抜き動画の収益化が許可されていたりと,かなり寛容なガイドラインで二次創作を促す内容にも読み取れる. 創作に対するこの考え方はサウンドハウス公認だからなのだろうか.

リファレンス不足

 デビューして日も浅いため,リファレンス(参考資料)があまり多くはない. なるべく完成度の高いものを作り上げたいのでリファレンスは重要だ. 公式に存在するリファレンスにできそうなものは主に以下の4点.

  • 衣装違いの正面立ち絵イラスト x2
  • キービジュアルのイラスト x1
  • サウンドハウスお姉さんを彷彿とさせるお辞儀イラスト x1

リファレンス (プレスリリースより引用)

 これらに加え,あとは配信に映るLive2Dでの姿のみ. 設定資料集などでよく見かける三面図のようなものはない. あいにく女性の衣服に対する認識の解像度も低く,イラストから正確な形状や質感を読み取るのも難しい. ひとまずはリファレンスを集めるところから始まった.

集めたリファレンスをPureRefに並べた

 しかし何より最大の問題が残る. それは後ろ姿が一切わからないこと. こればっかりはリファレンスだけで上手く補完するのも難しい. だからと言ってあまり頭で考えているだけでは何も前には進まない. 難しいがとりあえずやってみようの精神でBlenderを触り始める.

初めてのBlender

 とりあえず3Dで何かを作りたいのならば,無料で触れるBlenderが手っ取り早い. 実はBlenderに触れるのは初めてではないものの,約3年ほどブランクがありショートカットはおろか視点操作の方法も完全に忘れていた. そもそも約3年前に作っていたものはArtisanキーキャップの原型で,最低限のメッシュ操作ができる程度. つまりBlender初心者を名乗っても許されるところからのスタートである.

Artisanキーキャップ 「C. pepo」

 とりあえず何か簡単そうなチュートリアルYouTubeで探すとすぐにいいものが見つかった.

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ワニでもできる!モデリングforVRChat

人型のカボチャのキャラモデルを作る過程で,Blenderの基本操作とショートカットを学ぶことができる.

Blender初心者の作ったカボチャ頭

 こうしてカボチャのキーキャップを作っていたBlender初心者は,カボチャ頭のキャラクターを作れるBlender初心者に進化した.

ワークフローがわからない

 Blender初心者が多少Blenderの操作方法を理解したからと言っていきなりセルルックな人型キャラを作れるわけがない. とりあえず色々ポーズをを付け,なんかそれっぽくレンダリングできるところまでやることを目標にワークフローやそのチュートリアルを調べ始める. CGならチョットワカルので最低でもモデリング・スキニング・UV・テクスチャの4工程ぐらいがあることは理解している. しかしどういう手順でモデリングすれば良いトポロジーの顔ができあがるのかはわからない. UVの開き方はなんとなく想像できてもテクスチャの描き方がわからない. スキニングはもちろん最適なボーンの数や配置もわからない. そんなCGチョットワカルだったはずがCGナンモワカランに陥ってしまったタイミングで,とんでもなくわかりやすいチュートリアル動画と出会う.

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ふさこ / 3D自習室

ちょうどセルルックなVRMモデルを制作するためのチュートリアルがシリーズで更新されている最中だった. このチュートリアルだけで,BlenderSubstance Painter ~ UnityでのVRMモデル制作のための一連のワークフローが理解できる. VRMモデルまで仕上げることは当初は考えていなかったが,目標を各種アプリケーションで動くVRMモデルにレベルアップし,チュートリアルの内容を手本に挑んでみることにした. そしてこのチュートリアルの作者であるふさこ先生にはこの場を借りて感謝の意を表したい.

視点操作

 Blenderでのモデリング作業では視点操作にテンキーを用いる. Blenderと言ったらテンキーという印象がとても強い. 1で正面,3で右側面,7で上面に視点を切り替え,9で反転する. この4キーの操作だけで6方向への視点操作が瞬時にできる. さらに2468でそれぞれ上下左右に15度ずつ視点の回転もできる.

 そして何より5で透視投影と平行投影の切り替えができ,これがかなり重要な操作となる. というのも,リファレンスに用いた立ち絵はあくまでも三面図ではなく,それそのものがイラスト作品なので必ずパースがついている. ある程度までは平行投影でモデルのバランスを調整することはできるものの,透視投影に切り替えると印象が大きく変わってしまう. そのため,平行投影ではなく透視投影に視点を切り替えながら都度バランスを調整する必要がある. 透視投影での画角も焦点距離を50mm,80mm,120mmの3種類用意し進めてみた.

カメラ画角による印象の差異(左から50mm,80mm,120mm,平行投影)

テンキー

 そんなこんなでテンキーが必要になった. もちろんキーボードにはテンキーなんて付いていない. なんならキーボードは真っ二つに割れている.

Acperience70 spec_01

 取り急ぎなんでも良いので適当にAmazonでテンキーをポチる. 朝に注文すると夕方には届く文明の利器. なのにケーブルの長さが50cmしかない. 令和最新版とは書かれていないし大丈夫だろうと,ろくに商品説明を読まないで買うとこうなる. 「ノートパソコンでの使用に最適な~」という説明文ももちろん読んでいない.

エレコム テンキー TK-TCM011BK

 液晶モニタ横にUSBハブが付いていたことを思い出し事なきを得たが,Blenderの操作に慣れるにつれ操作感に不満が募る. 例えば頻繁に行う操作に頂点のマージやナイフツールがある. これらのショートカットはMキーとKキーだ. どちらのキーも右手側に位置するため一度マウスから手を離す必要がある. マウスから手を離すということはつまりマウス操作が一時的にできなくなる. (なおキーボードが割れているため距離があり左手を伸ばすことは難しい.) 操作に慣れれば慣れるほどこういう時間のロスが気になってくる.

 こうなったらやることはただ一つ. Blender用のテンキーを設計してしまおう. テンキーに少しキーを追加して右手側のショートカットを左手で押せるようにしてしまおう. 新しく設計したStella23というBlender用テンキーはまた別途簡単な記事を書く予定.

Blender用テンキー Stella23

完成(仮)

2023/06/01 ~ 2023/08/20

 「推しのファンアートを作った」という題ではあるが実際は「推しのファンアートを作っている」が正しい. これは最初からわかっていたことではあるが,そもそも3Dにすることが想定されていなさそうな衣装デザインが一部含まれる. 具体的には肩全体を覆うケープ部分が肩周りの骨に追従して動きつつ揺れ物として動作する構造となるため非常に難しい. プリレンダならともかくリアルタイムで動かそうとすると腕や上半身へのめり込みがかなり発生してしまう. そのため,このケープ部分がまだ完成しておらず「作っている」もしくは「作りたい」が正しい. (きっとプロのデザイナーなら上手くやるノウハウを持っているはずなのでどうにかして再現してみたい.)

 他にもテクスチャのディテール感の統一や袖のシワ表現,表情のシェイプキー追加などなど修正したい点は山ほどある. しかし完成を決めずダラダラと進めてしまうのは経験上すごくよくないことを知っている. 今のところ前述のふさこ先生のチュートリアルで学んだワークフローしか知らない状態. 見様見真似で手を動かしただけに過ぎず,まったく自分のものにはなっていない. そのため,一旦の完成,区切りを設けて,別の何かを作りつつ,ノウハウを詰んで自分のワークフロー見つけてみようと思う.

表情のシェイプキー

最後に

 クオリティはともかく推しのファンアートを作る過程でVRMモデル制作の一通りのワークフローが把握できた. マイクなどのプロップをセルルックな表現で作るのは簡単にできてしまう程度にはBlenderSubstance Painterの操作には慣れた. おそらく自分用のVRアバター程度であれば簡単に作れてしまうだろう. 推しがどうのこうの関係なく簡単な操作の繰り返しで立体物が出来上がる. この経験は非常に楽しいものなので万人にオススメしたい.

 わざわざここまで読んだ人は未視聴のはずはないが,改めて初のオリジナル楽曲を聞いてほしい.

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ハートシェイカー・ドキュメンタリー

聞いてほしい.

ちゃんと聞いた?

よし…いいぞ.


余談

THE FIRST TAKE風サムネ

 今までは3DのVTuberを見る度,スカートなど衣装への腕の貫通や,足の設置や腰周りのモーションの品質に目が行きがちだった. これはもう職業病だと思う. 事前にアニメーションを調整できるコンテンツが身近にあるとどうしてもそういった粗を探してしまう. しかし,BlenderでのモデリングからUnity上でのセットアップを通して学んだことで,3Dで動くVTuberを観察する視点が大きく変わった. 例え衣装に腕が貫通していたとしても,モーションに違和感があったとしても,顔を中心とした品質がしっかり一定以上に担保されている. もちろん品質の高くめり込みも最小限に抑えられたモデルもたくさん存在するが,やはり顔の品質が他の部位より一段上という印象が強い. 当たり前のことを改めて文章にすると「視聴者はVTuberの顔を最も見ている」ということらしい.


この記事はAcperience70で書きました.